●11月5日(日)9:00〜12:00 B会場(C101)
T26 コロブスとクモザルの中手骨の形態について ○高野 智((財)日本モンキーセンター) Metacarpal morphology of Colobus and Ateles TAKANO, T. (Japan Monkey Centre) 真猿類のうち、オナガザル科コロブス亜科のコロブスと、オマキザル科クモザル亜科のクモザルでは、ともに手の母指が縮小傾向にあり、母指は完全に欠落ないしは痕跡的である。
しかしながら、コロブスとクモザルでは身体のプロポーションや移動様式などが大きく異なっており、両者に共通の機能的要求のための適応とは考えにくい。かといって、コロブスとクモザルそれぞれについて、母指を喪失することの積極的な意味があるのかどうか、充分に議論されてきたとはいえない。
本発表では、コロブスとクモザルおよびこれらと近縁で母指を持つグループの中手骨について、主に骨体の捻転角を中心に検討した結果を報告する。
T27 テナガザル類の舌骨喉頭器官の変異 ○西村 剛(京大院・理・自然人類) Morphological variation of the hyo-laryngeal complex in gibbons and siamangs NISHIMURA Takeshi テナガザル類はいわゆる「ソング」(または「デュエット」)とよばれる特異的な音声を発する。本研究では、テナガザル類4属各一種を選び、それら雌雄成体1個体ずつ、計8個体の液浸標本を用いて、舌骨喉頭器官形態の比較解剖学的分析を行った。他の霊長類にはみられないテナガザル類に共通する筋系の特徴がある。それらは、ソング音声にみられる素早い基本周波数の操作に関与しているのかもしれない。また、シャーマン類以外のテナガザル類の甲状舌骨筋は細長く特異的であるが、シャーマン類には他の類人猿同様の特徴がみられた。この差異は、シャーマン類のみが他の類人猿と同様に喉頭嚢を持っていることと関連しているのだろう。
T28 道具を使う新しい運動機能の学習過程 ○平井直樹(杏林大学・医・統合生理学)、本郷利憲、内藤公郷、佐々木成人(東京都神経科学総合研・神経生理) Processes of motor learning for tool-using HIRAI, N., HONGO, T., NAITOH, K., SASAKI, S. 手で道具を扱うときの、認知・感覚・運動機能の統合作用を明らかにするため、全く新しい運動として、ニホンサルにピンセットをとらせ、それを使って5mm角のエサを摂り、エサを食べるという訓練をし、その学習過程を解析した。一ヶ月程度で、ピンセットを持つ、持ったピンセットの先端をエサのところに運ぶ、タイミングよくエサを摘む、という要素的運動を学習したあと、一定の位置においてあるピンセットを自発的にとり、それでエサをとれるようになった。この学習が成立したあと、ピンセットの方向を変えると、新たな運動学習が必要であった。ヒト二歳児の学習過程との比較も検討した。
T29 ニホンザルはシラミ卵の中身を食べ、孵化後の殻だけは捨てるようである 田中伊知郎(四日市大・環境情報) Free-ranging Japanese macaques appear to eat the contents of louse eggs and discard shells after hatching. TANAKA, I. ニホンザルは毛づくろい中にシラミ卵を毛からつまみ上げ食べる。 しかし、つまみ上げ行動の後食べないこともある。毛づくろい相手が行動を変化させないのに食べない場合は、毛から抜けた後も指をつまんでいることがわかった。さらに、食べるときと違って、つまんだものをつぶしたり、こねたりする行動が多く見られた。 ニホンザルは、つぶれる場合はシラミ卵を捨てている。チンパンジーでは、孵化後のシラミ卵の殻を取り上げて捨てることが報告されている(座馬2006)。孵化後のシラミ卵は殻だけで中身がないので簡単につぶれると考えられる。つまり、ニホンザルはシラミ卵の殻だけは捨て、中身のある卵を探し食べているようである。
T30 3色型色覚が有利とは限らない新世界ザルの実態:人類高頻度色覚異常成因の再考へ ○河村正二、筒井登子、平松千尋(東大・新領域)、Amanda D. Melin、Linda M. Fedigan(Univ. Calgary)、Colleen M. Schaffner(Univ. Chester)、Filippo Aureli(Liverpool John Moores Univ.)、印南秀樹(総研大) Trichromacy is not necessarily advantageous in New World monkeys: toward understanding the frequent color-vision deficiencies in humans KAWAMURA, S., TSUTSUI, T., HIRAMATSU, C., MELIN, A.D., FEDIGAN, L.M., SCHAFFNER, C.M., AURELI, F., INNAN, H. 我々はこれまでに野生新世界ザルの糞DNAを用いた赤-緑視物質遺伝子の調査から色覚多型が野生群に実在することを示した。今回我々は(1)偽遺伝子など中立遺伝子の塩基配列多型性を評価することで赤-緑視物質遺伝子に平衡選択が働いていることを示し、そして(2)雑食であるオマキザルの行動観察から2色型色覚がカモフラージュ昆虫の採食において優位であること、(3)果実食であるクモザルの行動観察と果実の反射光測定から果実の色よりも明度が重要であり3色型色覚が果実食において必ずしも有利ではないことを示した。これらは野生霊長類で3色型色覚の非優位性を示した始めての報告であり、人類に「色覚異常」が比較的高頻度である理由にも再考を促す。
T31 タンザニア、マハレのチンパンジーによるベッド作成の季節間比較 五百部裕(椙山女学園大学・人間関係学部) A comparison between dry and rainy seasons on bed-building by chimpanzees at Mahale, Tanzania. Ihobe, H. 本発表は、チンパンジーの長期継続調査によって、彼らの土地利用や遊動パターンに関する資料が大量に蓄積されているタンザニア共和国マハレ山塊国立公園において、M集団チンパンジーのベッド作成行動と彼らの土地利用や遊動パターンの関連を明らかにすることを目的とした一連の研究の成果の一つを報告するものである。分析に用いた資料は、1995年8月〜12月の現地調査の際に、ルートセンサスによって収集した。調査期間の前半が乾季、後半が雨季であった。収集した資料を、チンパンジーの土地利用パターンやチンパンジーの採食樹種と関連させて、乾季と雨季の季節の違いに焦点を当て分析・考察する。
T32 ニホンザルの樹上移動運動に関する運動学的分析 ○日暮泰男、平崎鋭矢、熊倉博雄(大阪大・人間科学・生物人類) Kinematic analysis of the macaque locomotion on the ladder-like substrate. HIGURASHI, Y., HIRASAKI, E., KUMAKURA H. 霊長類が生活する樹上空間では、地上とは異なり、利用可能な支持基体が不連続に配置されている。こうした不連続空間を移動するエネルギーコストを削減するため、霊長類は周囲の状況に合わせてロコモーション様式や歩様を変化させていると考えられる。今回は、水平に置かれた梯子状の樹上環境を鋼製パイプで模擬的に構築した。そして、支持基体の間隔を変化させ、それぞれの条件におけるニホンザルの移動運動を運動学的に分析した。結果として、手足の接地順序(footfall pattern)はいずれの条件でも同じであるが、比較的大きなギャップを越える歩行では、地上での歩行には見られない特徴が確認された。
T33 ニホンザル四肢筋骨格構造の機構解析 ○荻原直道、中務真人(京都大・理・自然人類) Structural analysis of limb musculoskeletal system in the Japanese macaque. OGIHARA, N., NAKATSUKASA, M. ニホンザル四肢筋骨格系の形態的・構造的特徴と、歩行機能との相互適応関係を明らかにするためには、解剖学的数理モデルに基づく筋骨格構造の機構学的解析が必要不可欠である。そこで本研究では、CTおよび屍体解剖により取得した形態情報を元に、ニホンザルの精密な3次元全身筋骨格モデルを構築した。本モデルによれば、各筋の収縮により手先・足先で発生しうる反力の向きと大きさが、骨形態や筋の配置によってどのように変化するかを推定し、筋骨格形態が歩行機能に与える影響を定量的に評価することが可能となる。
T34 ヒト上科の咀嚼時における大臼歯エナメルプリズムの機能 ○清水大輔(京都大・霊長研)、Gabriele A. Macho (Roehampton Univ.) The functional significance of prism in hominoidea mastication. Shimizu, D., Macho, G.A. ヒト上科において大臼歯が適応している咀嚼時における荷重方向の範囲を明らかにするために、ヒト、チンパンジーおよびAustralopithecus anamensisの上顎第三大臼歯頬側遠心咬頭の詳細な有限要素モデルを作成し、頬側から舌側にかけてさまざまな方向から荷重をかけた。 その結果、発生した応力の大きさおよび分布に3種の間で大きな違いが見られた。特にヒトは特徴的で頬側方向の荷重に対し、エナメル質の外側に高い引っ張り応力が集中していた。この荷重方向は直径1〜2cmの硬い種子などの食物を噛み砕くときに起こるものであるが、火や道具の使用によりこの方向へ荷重を受ける機会が激減したためであると考えられる。
T35 北京と内蒙古シリンホトの子どもの成長 ○芦澤玖美、棚町徳子(大妻女大・人間生活科研)、金鋒(中国科学院・心理研)、李玉玲、陸舜華(内蒙古師範大・生命科学院) Growth of children in Beijing and Xilinhot, Inner Mongolia. ASHIZAWA, K., TANAMACHI, N., JIN, F., LI, Y., LU, S. 生活条件が異なる北京と内蒙古シリンホトの子どもの成長に、どのような相違点があるかを知るために本研究を行った。資料は7―18歳の北京の男女1215名とシリンホトの男女1240名の身長、体重、腸骨棘高(下肢長)、上腕三頭筋皮脂厚、肩甲下皮脂厚の5項目である。身長、体重、BMI、皮脂厚は男女とも北京の子どもが有意に大きいが、下肢長とその対身長比は全年齢でシリンホトの子どもの値の方が高度に有意に大きい。したがって、北京とシリンホトの子どもの体形には気候適応より社会経済的影響の方が大きい可能性があるという結論を得た。
T36 Anthropometric analysis of Turkish children and adolescents aged 6-17 years ○ Basak KOCA OZER, Kazumichi KATAYAMA (Kyoto University, Graduate School of Science, Lab. of Physical Anthropology) The aim of the present study is to develop age reference growth centiles for Turkish children and adolescents and to assess the secular changes during the last 75 years. Cross-sectional survey was conducted on a total of 1427 (709 boys, 718 girls) healthy schoolchildren aged 6 to 17 years in Ankara, the capital city of Turkey. Historical comparative data have been obtained from former surveys. Body height and weight were measured according to the general anthropometric protocols, and socio-economic data were collected on each subject. Growth references were constructed by using the LMS method that summarises the distribution by three smooth curves representing skewness (L curve), the median (M curve) and the coefficient of variation (S curve). Results showed that the largest gain documented in height and weight occurred around the pubertal ages over the survey years. The positive secular change has been found in the second half of the last century, possibly coinciding with the increase in socio-economic prosperity of the nation.
T37 成長における形と大きさの概念の拡張:その小児肥満への応用 多賀谷昭(長野県看護大) Generalized concepts of shape and size in the morphology of growth: an application to childhood obesity TAGAYA, A. 形態を説明するのによく使われる「大きさと形」という表現は、まず大きさが定義されてはじめて形が定義できるという考えを暗に含んでいる。しかし、対象の認識においては、歴史的にも心理的プロセスとしても、逆に形の概念が先行し、大きさは形なしには意味をもたない。対象の認識における形の役割は所属の同定であり、大きさの役割は個体または状態の特定である。これを成長現象に拡張すると、個体同一性の形態的な表現が「形」に相当し、時間または成長の程度が「大きさ」に相当する。個体の形は不確定で確率分布を考える。このような拡張された形と大きさの概念は新しいアプローチを可能にする。その例として子どもの肥満の問題を検討する。
T38 子どもの歯とからだの発育 ○佐竹 隆、高橋昌己(日本大・松戸歯)、田中茂穂(国立健康・栄養研究所)、服部恒明(茨城大・教育) Relationship between tooth and body growth in Japanese children. SATAKE, T., TAKAHASHI, M., TANAKA, S., HATTORI, K. 歯の発育や大きさは、遺伝の影響を強く受ける。さらに、からだの発育・成熟、栄養などの影響も受けるといわれている。しかし、からだの発育や成熟、栄養などと歯の発育の関係についての研究は多いとはいい難い。そこで、子どものからだと歯の発育の関係を推察するため、年1回定期的に収集した小学1年生から6年生に至る歯列石膏模型と定期健康診断による身体計測値(身長、体重)から、それぞれ、永久歯の萌出数と大きさを計測し、また、体格指数を算出することによって、からだの発育・成熟、身体組成と歯の萌出や大きさとの関係について、男女差や年齢変化に着目して検討した。
T39 胎児期におけるヒト頭蓋骨の三次元成長変化 ○森本直記(京都大・理・自然人類)、荻原直道(京都大・理・自然人類)、片山一道(京都大・理・自然人類)、塩田浩平(京都大・医・形態形成機構) Growth related three-dimensional shape change of the human fetal cranium MORIMOTO, N. OGIHARA, N. KATAYAMA, K. SHIOTA, K. 胎児期における頭蓋の成長変化は形態決定に重要な意味を持つが、これまでほとんど研究が行われていない。そのため本研究では、月経齢約10週から40週までのヒト胎児のホルマリン固定標本をX線CTスキャナで撮影し、三次元数理形態学的手法を用いてその成長に伴う形状変化を横断的に解析した。その結果、胎児期においては成長とともに脳頭蓋、顔面頭蓋、頭蓋底大後頭孔部がそれぞれ相対的に内側後方、前方下方、前方上方に移動し、また後頭骨底部が水平軸周りに回転しその傾きが小さくなるとともに頭蓋底角が大きくなるなど、出生後とは異なる胎児期に特徴的な成長変化が明らかとなった。
T40 乳児ロコモーション発達の型について ○岩田浩子(名女大・短大・保育)、正木健雄(日体大) Patterns of the development of baby locomotion IWATA, H., MASAKI, T. 乳児期の歩行開始にいたるロコモーション発達については「あまり這わずに歩き始めた」といわれる子どもも散見されており、発達のしかたは一様ではないと考えられる。そこで本研究では保育園児367人を対象に保護者から回答を求めた質問紙調査資料を用い、寝返りから二足歩行獲得に至る発達の型を明らかにすることを試みた。
方法は、(1)寝返り、腹這い、膝つき這い這いの各頻度と、(2)歩行開始月齢について資料を整理し、数量化3類の適用による分析を行った。
その結果、乳児ロコモーション発達の型は、寝返りと這い這いの頻度、および、歩行開始の早い(11か月以前)・遅い(12か月以降)により5つに分けられることが分かった。
●11月5日(日)13:00〜15:12 B会場(C101)
T41 頭骨形態からみたジャワ原人の進化史 ○海部陽介・馬場悠男(科博・人類)、F. アジズ(インドネシア地質博物館)、E. インドリアティ・T. ヤコブ(ガジャマダ大) Evolutionary history of Javanese Homo erectus as viewed from cranial morphology KAIFU, Y., BABA, H., AZIZ, F., INDRIATI, E., JACOB, T. ジャワ原人の進化史については、その化石記録が充実しているにも関わらず、なお不明な点が多い。現時点で、単一進化系列と多系統という2つの見解が提示されており、新人との系統関係や混血の有無についてもなお論争がある。こうした形態解釈上の混乱の最大の原因は、統一的基準で採取された信頼性の高い形態データセットの欠如にあると思われる。我々は、サンギラン、サンブンマチャン、ガンドンの保存良好な成人化石頭骨15点について、CTによる計測点同定なども含めながら新たな計測データを収集した。その解析結果は、ジャワ原人が単一進化系列をなすこと、一定の形態的特殊化を示すこと、新人との大規模な混血はなかったことを示唆する。
T42 ジャワ島サンギランの含人類化石層の最小年代確定に向けて ○松浦秀治、近藤 恵(お茶の水女子大学)、兵頭政幸(神戸大学)、檀原徹(京都フィッション・トラック)、竹下欣宏(栃木県立博物館)、上嶋優子、金枝敏克(神戸大学)、Fachroel AZIZ、SUDIJONO(インドネシア地質調査研究所)、熊井久雄(大阪市立大学) Toward the reliable age determination of the youngest hominid-fossil bearing layers at Sangiran, Java. MATSU'URA, S., KONDO, M., HYODO, M., DANHARA, T., TAKESHITA, Y., KAMISHIMA, Y., KANAEDA, T., AZIZ, F., SUDIJONO, KUMAI, H. サンギランの人類化石の一部は、かつてオルドヴァイの150〜190万年前のホモ属と類似するとされたが、1970年代後半〜90年代初頭の演者らによる調査を含む研究から、サンギランの人骨はおよそ80〜110万年前の範囲、遡っても130万年前までと考えられた。しかし、90年代中頃から、米国を中心としたグループによって全体的に40万年程度古い年代観が主張され、他方でフランスを中心としたグループが若い年代値を報告するなど、混沌たる状況にある。この混乱はoldest ageを求めるだけでは解消されず、新しい地層から徐々に古い方へと議論を進め、まずはyoungest ageから確定していくことが編年再構築に不可欠である。その試行成果を述べる。
T43 カンボジアPhum Snay遺跡出土の先アンコール時代人骨について ○松村博文(札医大・医・解剖), DOMETT K. (ジェームズクック大・生物医学), BUCKLEY H.(オタゴ大・医・解剖), 山形眞理子(早大・文) Pre-Angkorian Human Skeletons from Phum Snay, Cambodia MATSUMURA, H., DOMETT, K., BUCKLEY, H., YAMAGATA, M. A large collection of human skeletons unearthed from pre-Angkorian Iron Age (c.100-500AD) settlement at Phum Snay in Banteay Meanchey Province, northwestern Cambodia was analyzed to underastand the origin of Khmer people, and to determine paleopathological condition with the consideration of social complex. The materials consist of numbers of unprovenanced skeletons stored at Wat Leu in Phum Snay and Wat Rajabo in Siem Reap, and dozens of skeletons newly excavated by the Origin of Angkor Project members from RUFA, Phnom Penh and Otago Univ. Unearthed artifacts such as the iron swords, as well as frequently observed skeletal trauma, suggest a militarized society of this site. The filing of anterior teeth performed in many adults was the characteristic of this group. The results of cranial and dental data analyses trace back the Khmer origin to the Phum Snay people.
T44 東アジア諸集団の頭蓋形態の多様性とその由来 ○重松正仁(佐賀大学・医・歯科口腔外科)、石田 肇(琉球大学・医・解剖)、後藤昌昭(佐賀大学・医・歯科口腔外科)、埴原恒彦(佐賀大学・医・生体構造機能) The micro-evolution of modern eastern Asian craniofacial diversity SHIGEMATSU, M ., ISHIDA, H., GOTO, M., HANIHARA, T. 日本人の起源に関する二重構造仮説では、縄文人は東南アジア起源とされているが、それはCG.Turnerの歯の研究と東・北東アジア集団のスンダランド起源説(北上説)を根拠とする。一方、最近では北東アジア集団は、中央アジアあるいは更に西の地域の集団が、シベリアルートを通り、東アジアにやってきたと考える研究者も多く、このような集団の中に縄文時代人の起源を求めうる可能性も示唆されている。しかし北東アジア州団の由来に関するこれら2仮説についての形態学的な検討は必ずしも十分とは言えない。そこで、本研究ではR-matrix法を形態学的データに応用し、集団の進化モデルを検討することにより、東アジア諸集団の成り立ちを考察することを試みる。
T45 弥生時代相当の韓国勒島人骨について―頭蓋骨の形態の検討― ○藤田 尚(新潟県立看護大学・人間環境学領域)、茂原信生(京都大学霊長類研究所)、崔鐘圭(韓国慶南考古学研究所) Nukudo Skeletal Remains in South Korea-Cranial Morphology- FUJITA, H., SHIGEHARA, N., CHOI, J. G. 韓国勒島貝塚遺跡は、日本の弥生土器である須玖T式およびU式土器が出土すると同時に、楽浪のBC1世紀ごろの土器や、晋と前漢の貨幣が出土する。従って、BC1世紀から紀元前後までの100年間ぐらいに亘る遺跡と考えられる。本遺跡から多数の人骨が発掘された。韓国では、これまでまとまった人骨としては、日本の古墳時代に相当する礼安里の人骨が有名であり、日本の古人骨との比較検討に用いられてきた。勒島人骨は、礼安里人骨よりも、時期的に400年ぐらい古い人骨で、韓国でまとまった人骨群としては、最古のものであり、その意味で大変に貴重な人骨であるといえる。出土人骨は、日本からの渡来人、韓国人、日本人と韓国人の混血人などが考えられる。本発表では、出土人骨の頭蓋骨の形質について、日本の弥生時代の人骨との比較も交えて報告する。
T46 弥生時代相当の韓国靭島人骨についての古病理学的検討 ○鈴木隆雄(東京都老人総合研究所)、藤田尚(新潟県立看護大)、崔鍾圭(韓国慶南考古学研究所) Pathological findings in the skeletons from the Nukudo Island, Korea. Suzuki, T., Fujita, H., Choi, JG. 韓国靭島出土人骨からは、外傷、退行性病変および炎症性疾患など、さまざまな病理学的変化が確認されている。本報告では、117号人骨の脊椎における炎症性変化について報告する。 脊椎病変は第11・12胸椎(癒合)および第1腰椎の3椎体に存在している。第11胸椎椎体前面には明らかな炎症性破壊性変化が出現し、第12胸椎および第1腰椎では、椎体本来の正常な形態は完全に失われ、いずれも一塊の不整骨塊となっている。新生骨増殖像は乏しい。椎間板腔の狭小化が認められ、第12胸椎を中心として約30%の前傾を示す。 これらの破壊性骨病変については特に化膿性脊椎炎および結核性脊椎炎の2つ鑑別診断が必要である。
T47 弥生時代相当の韓国勒島人骨について―歯の観察からの検討― ○橋本裕子(奈文研・環境考古学研究室)、藤田尚(新潟県立看護大・人間環境学領域)、崔鍾圭(韓国慶南考古学研究所) Nukudo Skeletal Remains in South Korea-Observation of the teeth- HASHIMOTO, H., FUJITA, H., Choi, J. G. 勒島遺跡は、韓国慶尚南道泗川市勒島洞、落花生型の島に所在する。遺跡の時期は無文土器(青銅器)時代後期が主で、原三国(三韓)時代にまたがっている。本遺跡の墓域から約100体の人骨が出土している。遺跡からは無文土器の他に、須玖式の弥生土器や楽浪土器が出土している。そのため、日本から韓半島にいたる交流拠点として重要な遺跡の一つであるといえよう。勒島に居住している人々だけでなく、日本の幾つかの地域から渡来し生活した可能性も指摘されている。そこで、今回は歯冠計測と歯の非計測的特徴から本遺跡出土人骨の特徴を明らかにし、日本の弥生時代人と比較することによって、勒島遺跡に埋葬された人々についての考察を行う。
T48 現生ニホンジカにおける採食生態・生息環境と大臼歯微細咬耗の関連性 ○尾崎麦野(東大・理・人類) Correlations between ecology and microwear features in the sika deer (Cervus nippon). OZAKI, M. 人類化石出土遺跡において豊富に出土する有蹄類化石は、初期人類の生息環境の指標として重要であり、その大臼歯微細咬耗の比較は古環境推定に寄与する方法として用いられてきた。微細咬耗には、採食生態(イネ科草本選好;グレーザー、木本植物選好;ブラウザー)や生息環境の違いが反映されることが示されているが、従来の生態データは不十分な点も多い。そこで今回、生態が明らかな現生ニホンジカの地域集団を対象として、生態と微細咬耗の特徴の関連性について予備調査を行った。その結果、グレーザー型集団ではブラウザー型集団よりも細かい条痕が多く観察されるとともに、グレーザー型でも森林性と草原性では異なる特徴が認められた。
T49 現代日本人における身長に関する同類婚の傾向と原因について ○関 元秀、関加奈子、井原泰雄、青木健一(東京大・理・人類) Assortative mating on body heights and its causes in Japanese society. SEKI, M., SEKI, K., IHARA, Y., AOKI, K. Positive correlation in height between spouses has been reported in some European societies though its causal mechanism is not well-understood. To investigate whether such assortative mating on heights is also seen in Japanese society, we conducted a series of questionnaire surveys among Japanese students (Keio University 2004-2006 and Tokyo Woman’s Christian University 2004-2005). In each survey, subjects were asked to report their ages and heights and those of their parents. The ideal height for their partners was also asked. (1) Significant correlation in height between parents is found in some of the surveys. According to our path analysis, however, this correlation is due to assortative mating on ages and correlation between heights and ages. (2) Heights of students’ ideal partners are more strongly associated with heights of their opposite-sex parents than their own heights. Thus a familial effect that resembles to sexual imprinting is suggested.
T50 定期的に変動する環境下での社会学習における同調伝達の進化 ○中橋 渉(東京大学・理・生物・人類) The evolution of conformist transmission in social learning when environment changes periodically Nakahashi, W. 社会学習者は多数派の行動を模倣する傾向が強いといわれ、これは同調伝達と呼ばれる。本発表では、同調伝達がどういう場合に進化するかを数理モデルによって示す。
モデル:環境が定期的に変動し、二度と同じ環境に戻らない。各環境に適応した正しい行動が1つだけあり、他の行動は同等に非適応的。個体学習する場合、コストはかかるが、必ず正しい行動をとる。社会学習する場合、前世代の行動のどれかを模倣するが、この時ある強さで同調伝達の効果がかかる。
以上のモデルで、個体学習する確率と同調伝達の強さのESSを求めた結果、環境変動の周期が短いほど、また個体学習のコストが小さいほど同調伝達が進化しやすいことが分かった。
T51 祖型人類の生態と社会:類人猿モデルの検証 山極寿一(京都大・理・人類進化論) Ecological and social features of early hominin: viewpoints from ape models YAMAGIWA, J. 最近アフリカ各地で古い年代の人類化石が発掘され、人類の祖先の形態的特徴とその環境が明らかになってきた。人類の祖先は比較的乾燥した森林に生息し、その西方に連続する熱帯林にはゴリラとチンパンジーの祖先が人類と同所的に暮らしていた可能性がある。私はこれまで同所的に共存するゴリラとチンパンジーの社会生態学的研究を行ってきたが、2種の類人猿が共通の食性と繁殖特性を保持しながら分化していることが明らかになった。類人猿の祖先との同所性を重視すれば、この資料を基に彼らと共存していた人類の祖先の特徴も類推できるはずである。類人猿とは異なる人類独特のニッチと社会を、これまで出されている仮説とあわせて検討する。
●11月5日(日)13:00〜14:24 D会場(B104)
T52 フィジーにおけるラピタ人の拡散―「ポリネシア行き急行」仮説をめぐって― ○石村 智(奈良文化財研究所)、パトリック・ナン(南太平洋大学)、ロゼリン・クマール(南太平洋大学)、セペチ・マタラランバ(フィジー博物館) Lapita dispersal toward Fiji: implication for “Express train to Polynesia” hypothesis ○Tomo Ishimura, Patrick D. Nunn, Roselyn Kumar, Sepeti Matararaba フィジー・ボウレワ遺跡の発掘成果によって、これまでのラピタ人およびオセアニア先史時代の理解がおおきく進展した。ボウレワ遺跡ではこの地域におけるこれまでの最古年代を数百年さかのぼる紀元前1200年という年代がしめされ、さらに4000キロもはなれたビスマルク諸島産の黒曜石もみつかった。こうした事実から、ボウレワ遺跡はラピタ人の創始者集団によって直接植民された集落であるとかんがえられ、ラピタ人の拡散は漸移的なものではなく、いっきに数千キロの遠距離航海によってなしとげられたことが想定される。
T53 ポリネシア・プカプカ環礁出土動揺下顎のCT像 ○吉田俊爾、佐藤巌(日本歯科大学・生命歯学部・解剖学)、河合泰輔、浅海利恵子(日本歯科大学・生命歯学部・歯科放射線学) CT image of the rocker jaw from Pukapuka atoll, Polynesia. YOSHIDA S., SATO I., KAWAI T. and ASAUMI R. ポリネシア・クック諸島・プカプカ環礁から出土した、2個体分の先欧期女性の動揺下顎について、そのCT像を報告する。2個の下顎の主要な計測値はそれぞれ、下顎角幅が94mm、92mm、最小下顎枝幅が36mm、35mm、下顎体厚が14mm、15mmである。2つの下顎骨には角前切痕は認められない。この2つの下顎骨の、オトガイ孔部の頬舌方向に切ったCT像をみると、2つとも緻密質が厚く、また骨密度も高い。そして海綿質もその配列が密である。
T54 ミクロネシア・ファイス島における資源利用と環境変化 印東道子(国立民族学博物館・民族社会・考古) Living strategy and environmental change on Fais Island in Micronesia. INTOH, M 隆起サンゴ島であるミクロネシアのファイス島において、1991・2005年に行った発掘調査で明らかになった資源利用と環境変化について考察する。3メートルを越す深い文化堆積層は1800年を越す継続居住を明らかにし、出土した土器片や、家畜(イヌ、ブタ、ニワトリ)やネズミの骨、魚骨、カメの骨などは、外界接触を中心とした居住戦略や資源利用の様子を示している。
1000年間で1.7メートルもの土壌の堆積スピードは、ミクロネシアの他のサンゴ島ではほとんど例がなく、堆積土壌の厚さや堆積スピードを内陸からの土壌流出やストーム堆積との関連で考察する。
T55 The Morphological Examination of the Human Skeletal Remains from Fais Island, Federated States of Micronesia Lee Ai Ling, Kazumichi Katayama, Michiko Intoh Morphological examinations of the Fais human skeletons, consisting of eight adults, one juvenile and five infants had been carried out. Overall, the metric and non-metric traits of the Fais individuals showed some similar characteristics with other Micronesian samples. Two females showed the presence of a treponemal disease, most likely yaws, as also seen in the Marianas and Palau skeletons. The presence of trauma to the vertebral column and the analysis of the occupational stress markers suggested a physical lifestyle for the Fais Islanders. High incidence of caries and enamel hypoplasias were found among the Fais islanders. Brown staining of the enamel was also found but this was due to enamel hypocalcification and hypoplasia rather than betel chewing. It must be cautioned that because of the small sample size, any conclusions drawn can only be tentative until a larger sample size can be acquired.
T56 ケニア、ナカリの化石類人猿について ○中務真人(京大・院理)、國松豊(京大・霊長研)、仲谷英夫(鹿児島大・地球環境)、辻川寛(東北大・院医)、山本亜由美(京大・霊長研)、酒井哲弥(島根大・総合理工)、實吉玄貴(林原古生物学研究センター)、澤田順弘(島根大・総合理工) A Late Miocene hominoid from Nakali, Kenya NAKATSUKASA, M., KUNIMATSU, Y., NAKAYA, H., TSUJIKAWA, H., YAMAMOTO, A., SAKAI, T., SANEYOSHI, M., SAWADA, Y. 京都大学、島根大学、ケニア国立博物館の共同調査隊は、2005年、ケニアのナカリにおいて、新種と思われる大型類人猿の歯牙・顎骨化石を発見した。この年代は990−980万年前と決定された。これまで知られていたサンブルピテクス(960万年前)とはほぼ同時代であるが、形態的特徴はかなり異なる。この類人猿の発見は、後期中新世アフリカにおける類人猿の多様性、ユーラシアを含めた後期中新世類人猿系統仮説の構築について重要な示唆を与える。
T57 膝蓋骨の形態からみたアフリカ産中新世類人猿の体移動様式 ○石田英實(滋賀県大・人間看護・基礎) 、中野良彦(阪大・人間科学・生物人類)、荻原直道・中務真人(京大・理・自然人類)、清水大輔・国松 豊(京大・霊長研・形態進化)、高野 智(日本モンキーセンター) A study of locomotor modes of African Miocene apes on the basis of patella morphology. ISHIDA H., NAKANO Y., OGIHARA N., NAKATSUKASA M., SHIMIZU D., KUNIMATSU Y., TAKANO T. 膝蓋骨は膝関節を構成する一要素であり、その形態は後肢の運動や体移動の様式を反映する。ここでは主としてわれわれの調査隊が発見した中期中新世類人猿のナチョラピテクス、ケニア国立博物館に所蔵されている前期中新世類人猿のプロコンスル類、それに現生霊長類の膝蓋骨形態を比較分析することによって、アフリカ産中新世類人猿に見られる体移動様式の復元を試みた。
前期のプロコンスル類では四足型の緩やかな樹上登攀運動を主体とするが、中期になるとナチョラピテクスで代表されるケニアピテクス類ではより活発な四足型の樹上登攀運動となり、その程度は低いがチンパンジーやボノボがもつ体移動様式への移行傾向を示す。
T58 エチオピア、アファール地溝帯南西部の古人類学調査 ○諏訪 元(東大・総博)、B.Asfaw(エチオピア地溝帯研究センター)、河野礼子(科博・人類)、Y.Beyene(エチオピア文化観光省) Paleoanthropological survey in the southwestern Afar rift. SUWA, G., ASFAW, B., KONO, R.T., BEYENE, Y. アファール地溝帯には、560から570万年前のアルディピテクス・カダバ、440から450万年前のアルディピテクス・ラミダス、約400万年前以後のアウストラロピテクス属とホモ属各種の人類化石を伴う動物化石群集が数多く知られている。しかし、今のところ600万年前以前の哺乳動物化石はアファール地溝帯南西端、約1000万年前のチョローラ累層の一地点から報告されているだけである。この地点からは、1970年代以来、ヒッパリオンを伴う断片的な哺乳動物化石が知られているが、霊長類化石の報告はない。本発表では、近年、我々が開始した同地域における調査の予備的成果を紹介する
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